理事長挨拶

一般社団法人 日本解剖学会
理事長 岡部繁男

日本解剖学会は第一回の会合が明治26年(1893年)に開催され、現在までに120年以上の歴史を持っています。第3回の学会で初めて5題の演題発表が行われましたが、最近では常に600−700題の演題が春の学会で発表され、学会員および関連研究者による活発な情報交換の場となっています。学術集会の開催は学会の大きな行事ですが、それ以外にも日本解剖学会は医学・歯学分野における形態学を中心とした学術と教育の発展に様々な形で関与しています。

生命科学の分野においては1970年代から遺伝子クローニング技術の応用が急速に進みました。その結果として、生物や細胞の形態を観察しなくても、遺伝子から直接的に生体の機能を理解することが可能である、という偏った考え方が一時期支配的になりました。しかし遺伝子と個体レベルの機能の間には大きな隔たりがあります。遺伝子改変動物が効率良く作成されたとしても、その表現型の解析が必ずしも簡単ではない、という事に多くの研究者が気づく様になりました。現在の生命科学においては分子、細胞、組織といった様々なレベルで生命現象を「かたち」として視ることが非常に重要視され、そのための方法論の開発や開発された技術を利用した新しい生命現象の理解が進んでいます。日本解剖学会は学会員の研究環境の向上や若手研究者の育成を通じて、日本の形態学研究の発展、そして世界的な研究成果を生み出すことを支援しています。

日本は超高齢社会へと移行し、国民の健康の維持と改善は社会的に最も重要な課題になっています。疾病の予防、早期診断、根本的治療を具体化するには病気の原因を理解するための医学研究が重要であり、そのような研究を担う若手医師、歯科医師、研究者の育成が必要です。解剖教育は医学教育の根幹となる科目です。特に解剖体を用いた肉眼解剖実習を行うことで学生は人体の構造と各部位の名前を知り、それ以降の臨床医学教育の基盤を得ます。また医学部を卒業した若手医師に対して解剖体による手術手技等の研修の機会を提供することも必要です。日本解剖学会の使命の一つは大学における医学・歯学の教育を通じて日本の医学と医療の質の向上に貢献することです。

学問は国境を越えた活動です。学術団体同士の国際交流により、科学的知見の速やかな浸透、人的交流の促進、政府への働きかけによる国際協力などが実現します。日本解剖学会はこれまでアジア・パシフィック国際解剖学会議への協力、国際解剖学会議や国際形態科学シンポジウムの日本における開催などを通じて形態学分野での国際交流に貢献してきました。自国優先主義が勢いを得つつある現在、アカデミアレベルでの国際連携活動を維持し発展させることが今後益々重要になると考えます。

形態科学の振興、医学・医療の質の向上、学問の国際化という三つの項目のいずれにおいても日本解剖学会の責務は今後益々大きなものになると考えております。私が代表を務めます平成29年からの2年間の解剖学会の活動について益々のご理解とご支援をお願いいたします。