解剖学用語(ラテン語)について

島崎 三郎

出典:解剖誌 61:218~226(1986)
〔執筆者紹介〕東京大学理学部動物学科昭和15年卒.東京大学衛生看護学科,東邦大学医学部,日本大学医学部を歴任.医学・生物学のラテン語・ギリシャ語の権威.訳書にアリストテレス全集,ケルスス医学論序論,リンネ自然の体系鳥類編,ポルトマン比較形態学などがある.元日本解剖学会会員で長らく発生学用語委員を務められた.

 解剖学に用いられるラテン語 Nomina anatomica について,その発音,語尾変化および構成法を解説する.(ラテン語を正しく発音するためには,母音の長短を知っている必要があるので,以下の用例では長母音に長母音符( ¯ )をつけて短母音と区別した.)

Ⅰ.ラテン語の字母

大文字小文字名称音価用例
Aaā〔a, aː〕cavum, forāmen
Bb〔b〕bulbus
Cc〔k〕collum
Dd〔d〕dēns
Eeē〔ε, eː〕brevis, duodēnum
Ffef〔f〕fīlum
Gg〔ɡ〕ganglion
Hh〔h〕hiātus
Iiī〔i, iː〕insula,īris
Jj〔j〕jējūnum
Kk〔k〕skeleton
LIel〔l〕lāmina
Mmem〔m〕membrāna
Nnen〔n〕nāsus
Ooō〔ɔ, oː〕os,ōs
Pp〔p〕pēs
Qq〔kw〕quārtus
Rrer〔r〕rāmus
Sses〔s〕sinus
Tt〔t〕tūber
Uu〔u, uː〕uncus,ūvula
Vvū〔w〕vās
Xxix〔ks〕vertex
Yyy¯psīlon〔y, yː〕hypophysis,hy¯men
Zzzēta〔dz〕zōna

1.ラテン語(Lingua latīna)は Rōma を首都とする Latium 地方に住むラテン人(Latīnī)の言語という意味であって,その字母がローマ字なのである.字母の名称が英語よりはむしろドイツ語に近いのは,ドイツ人がラテン語の名称を忠実に守ったことを物語っている.また,音価(発音)が日本式ローマ字に近いのも当然である.

2.字母は古典期には大文字だけで,小文字は中世時代に造られた.

3.J は母音 I の子音化したものを区別するために新たに造られた.

4.U は母音 V の子音化したものを区別するために,V を子音として残し,新たに母音 U を造った.

5.本来のラテン語字母は A から X までで(J と U はない),Y と Z は古典期に導入されたギリシア文字である.

Ⅱ.ラテン語の発音

1.ラテン字母の発音は1字1音価である.

2.母音字は a,e,i,o,u,y の6種で,それぞれ長短があり,長母音には ā,ē のように長音符( ¯ )をつけて区別する.母音の発音は大体日本語と同じでよかろう.y はギリシア文字で,その発音はドイツ語の ü またはフランス語の u に等しいが,英語の y のように〔i〕と読んでもさしつかえない.

3.重母音は ae〔ai〕,oe〔oi〕,au〔au〕,eu〔eu〕,ei〔ei〕,ui〔ui〕の6種あるが,ae と oe は最近の P.N.A.(パリーの国際解剖学会で議決された解剖学用語)では,英語のように ae も oe も ē となっている.たとえば,caecum → cēcum,oesophagus → ēsophagus.

4.子音字のうちで注意すべきもの.
c は常に〔k〕である.cervix,cinereus も.
g は常に〔ɡ〕である.genū,gingīva も.
j は常に〔j〕である.mājor も.
k は古典期においても Kalendae(ついたち)と Karthāgō(カルタゴ)に見られるだけであった.ギリシア語にきわめて多く用いられる k もラテン語化すると c になるので,解剖学用語には skeleton ぐらいしか見当らない(これもギリシア語であるが,c に書きかえなかっただけである).
q は常に qu〔kw〕の形をとる.
s は常に清音〔s〕である(ラテン語には濁音の〔z〕を表わす字はないので,ギリシア語の z を導入した).
t は常に〔t〕である.decussātiō も〔―tioː〕.
v はもとは母音であったが,母音を表わす u の字を造ったので,今では子音〔w〕である.しかし,たとえば,vēna〔weːna〕を〔veːna〕と読んでもさしつかえない.
x は常に二重子音〔ks〕である.
z は二重子音を表わすギリシア文字であるが,英語のように〔z〕と読んでさしつかえない.
ch〔k〕,ph〔p〕,rh〔r〕,th〔t〕はそれぞれ帯気音を表わすギリシア文字 χ,φ,ρ,θ を転写したもので,単一子音として取扱われる.発音は,ここに示したように,h のないものと同じでよいが,ph を英語のように〔f〕と読んでもよかろう.

5.同じ子音が2個重なっているときも,それらを一つずつ発音する.たとえば,medulla〔medulla〕,mamma〔mamma〕であって,英語のように〔medʌlə〕,〔mæmə〕ではない.

6.b の後に s,t が続くと,bs〔ps〕,bt〔pt〕となる.また,u は g,q,s の後では gu〔gw〕,qu〔kw〕,su〔sw〕となる.

Ⅲ.ラテン語のアクセント

 アクセントは母音(または重母音,以下略す)につく.音節は1個の母音に基づいて形成されるので,母音の数が音節の数である.音節の区分を問題にするとかえって煩雑になるので,ここでは母音の数で音節の数を示すだけにしておく.ラテン語にはきわめて簡明なアクセントの規則がある.

1.1音節の語 ― アクセントをつけるとすれば,その母音以外にはない.
(母音)´
cór,crū´s,dē´ns,ós,pē´s,rē´n

2.2音節の語 ― アクセントは常に前(後から2番目)の音節にある.
(母音)´(母音)
álbus,córpus,nérvus,rā´dix,téndō,vénter,zō´na

3.3音節(以上)の語 ― アクセントは a)後から2番目の音節が長音節ならば,その音節に,b)短音節ならば,その前(後から3番目)の音節にある.

a)(母音)(長音節)´(母音)
長音節は,長母音(または重母音)を含むか,短母音の後に子音が重なる場合(二重子音 x,z を含む).forā´men,trāchē⁠´a,colúmna,medúlla,connéxus

b)(母音)´(短音節)(母音)
短音節は,短母音の後に子音が1個だけの場合(ch,ph,rh,th のほかに br,tr なども含む).artē´ria,cávitās,lā´mina,cérebrum,pálpebra,vértebra

Ⅳ.ラテン語(名詞・形容詞)の語尾変化

 解剖学用語のラテン語は主として名詞と形容詞(序数詞を含む)で,その変化形もほとんど単数・複数の主格・属格である.まれに前置詞(ad,cum,sine)を伴った対格や従格(奪格ともいう)や接続詞(et,-⁠que,sīve)が見られる.次に名詞と形容詞の変化を表に示し,順次説明する.

A.名詞の語尾変化

表1 名詞の語尾
名詞単数複数形容詞
種類主格属格主格属格種類
第1変化vēn-⁠a-⁠ae-⁠ae-⁠ārum第1・2変化
第2変化nerv-⁠us-⁠i-⁠i-⁠ōrum
coll-⁠um-⁠i-⁠a
第3変化男・女子)pēs
i)auris
子)ped
i)aur
-⁠is-⁠ēs子)-⁠um
i)-⁠ium
第3変化
子)caput
i)rēte
子)capit
i)rēt
-⁠is子)-⁠a
i)-⁠ia
第4変化男・女man-⁠us-ūs-ūs-⁠uumナシ
gen-⁠ū-⁠ūs-⁠ua
第5変化faciēs-⁠ēī-⁠ēs-⁠ērum

1.第1変化名詞は,ほとんど女性で,男性も少しはあるが(解剖学用語にはない),中性はない.単数主格の語尾は -⁠a で,たとえば,vēna,vēnae,vēnae,vēnārum と変化する.辞典や単語集では,単数主格に属格の語尾をそえて vēna,-⁠ae f. (静脈)と示す.例としては,aorta(大動脈),artēria(動脈),arteriola(小動脈),auricula(耳介),chorda(索),columna(柱),costa(肋骨),crista(稜),fossa(窩),fovea(窩),palpebra(眼𥇥),squāma(鱗),trāchēa(気管),trochlea(滑車),vēna(静脈),vēnula(小静脈),vertebra(椎),vēsīca(嚢),zōna(帯),zōnula(小帯)など.なお,ギリシア語の diploē(板間層)や raphē(縫線)の語尾の -⁠ē はラテン語化すれば -⁠a になるものであって,-⁠ē,-⁠ēs,-⁠ae,-⁠ārum と単数だけギリシア語のように変化する.

2.第2変化名詞は,男性と中性に分けられる.男性名詞は単数主格の語尾が -⁠us で,たとえば,nervus,nervī,nervī,nervōrum と変化し,nervus,-⁠ī m. (神経)と示す.例としては,angulus(角),bronchus(気管支),bronchiolus(細気管支),condylus(顆),mūsculus(筋),rāmus(枝),sulcus(溝),ventriculus(室)など.(なお,-⁠us に終る第2変化名詞の中には alvus(腹)のような女性名詞や vīrus(病毒,ウイルス)のような中性名詞もわずかながら含まれている.)中性名詞は単数主格の語尾が -⁠um で,たとえば,collum,collī,colla,collōrum と変化し,collum,-⁠ī n. (頚)と示す.例としては atrium(房),brachium(腕),capitulum(小頭),cavum(腔),dorsum(背),labium(唇),ligāmentum(靱帯),manūbrium(柄),organum(器官),ostium(口),tūberculum(結節),vēlum(帆)など.なお,encephalon(脳),ganglion(神経節),skeleton(骨格)のようなギリシア語の中性名詞は,ラテン語としても -⁠um とせずにそのまま使われている.一般に中性名詞の複数主格が -⁠a に終ることは,第2変化だけでなく,第3,第4変化にも適用される通則であって,例外はない.

3.第3変化名詞は,男性または女性(同形)と中性に分けられる.この変化の名詞は単数主格の形がいろいろで,代表的な語尾を示すことはできないが,属格は必ず -⁠is に終り,語幹が現われている.第3変化の名詞には,a)語幹の末尾が名種の子音に終るもの(子音語幹の名詞)と,b)母音の i に終るもの(i 語幹の名詞)があり,後者の複数には i が現われる.

a)子音語幹の男性名詞は,たとえば,pēs,pedis,pedēs,pedum と変化し,pēs,pedis m. (足)と示す(d 語幹).例としては,liēn,-⁠ēnis(脾臓),rēn,rēnis(腎臓),margō,-⁠inis(縁),tendō,-⁠inis(腱),pulmō,-⁠ōnis(肺),(以上 n 語幹),venter,-⁠tris(筋腹),vōmer,-⁠eris(鋤骨),sphinctēr,-⁠ēris(括約筋),trochantēr,-⁠ēris(転子),ūrētēr,-⁠ēris(尿管)(これらの3つはギリシア語),extensor,-⁠ōris(伸筋),flexor,-⁠ōris(屈筋),levātor,-⁠ōris(挙筋)(以上 r 語幹)など.女性名詞では,articulātiō,-⁠ōnis(関節),formātiō,-⁠ōnis(構成体),cartilāgō,-⁠inis(軟骨)(以上 n 語幹),extrēmitās,-⁠ātis(端),tūberōsitās,-⁠ātis(以上 t 語幹)など.子音語幹の中性名詞は,たとえば,caput,capitis,capita,capitum と変化し,caput,-⁠itis n. (頭)と示す(t 語幹).例としては,abdōmen,-⁠inis(腹),forāmen,-⁠inis(孔)(n 語幹),tūber,-⁠eris(隆起),corpus,-⁠oris(体),femur,-⁠oris(大腿骨),pectus,-⁠oris(胸),tempus,-⁠oris(時,複数形 tempora は側頭),ōs,ōris(口)(以上 r 語幹),chīasma,-⁠atis(交差),parenchyma,-⁠atis(実質),strōma,-⁠atis(支質),hēpar,-⁠atis(肝臓)(以上の4つは t 語幹のギリシア語)など.なお,中性名詞 cor(心臓)や os(骨)は,cor,cordis,corda,cordium;os,ossis,ossa,ossium と変化し,複数属格に,次にのべる i 語幹の i が見られるし,vās(脈管)は,vās,vāsis,vāsa,vāsōrum と変化するので,複数属格が第2変化の語尾を取っていて(第3変化なら vāsum となる),いずれも不規則なものである.

b)i 語幹の男性名詞は,たとえば,canālis,canālis,canālēs,canālium と変化し,複数属格に i が現われている(もともと canāli- までが語幹).canālis,-⁠is m. (管)と示す.例としては,pēnis,-⁠is(陰茎),unguis,-⁠is(爪)などのほかに,dēns,dentis(歯),mōns,montis(山,丘),pōns,pontis(橋)などの単音節の語がある.女性名詞も auris,-⁠is(耳),cutis,-⁠is(皮膚),nāris,-⁠is(鼻孔),pelvis,-⁠is(骨盤)などのほかに,frōns,frontis(額,前頭),glāns,glandis(どんぐり,亀頭)などの単音節語があって,いずれも男性名詞と同じように変化する.i 語幹の中性名詞は,たとえば,rēte,rētis,rētia,rētium と変化し,複数の主格と属格に語幹末尾の i が見られる.rēte,-⁠is n. (網)と示す.そのほかには,dēclīve,-⁠is(山腹),calcar,-⁠āris(拍車,鳥距)ぐらいしか見当らない.以上の第3変化名詞でも中性複数主格が -⁠a に終ることは,先にのべたとおりである.

4.第4変化名詞は,男性または女性(同形)と中性に分けられる.男・女性名詞の単数主格は -⁠us で,たとえば,manus,manūs,manūs,manuum と変化し,manus,-⁠ūs f. (手)と示す.男性名詞の例としては,aditus(入口),arcus(弓),ductus(管),hiātus(裂孔),meātus(道),plexus(叢),prōcessus(突起),recessus(陥凹),sinus(洞),tractus(路)などのほかに,sensus(感覚)の種類である vīsus(視覚),audītus(聴覚),olfactus(嗅覚),gustus(味覚),tactus(触覚)はみなこの変化である.第4変化男性名詞には動詞から造られた動名詞が多い.女性名詞は,解剖学用語では先にあげた manus(手)だけで,手が女性,足(pēs,pedis m.)が男性であることは,ギリシア語やラテン語ばかりでなく,ドイツ語やフランス語などにも見られる.中性名詞の単数主格は -⁠ū で,たとえば,genū,genūs,genua,genuum と変化し,genū,-⁠ūs n. (膝)と示す.例としては cornū(角)を加えておく.複数主格の語尾は -⁠ua で,第2変化,第3変化の中性名詞と同じように -⁠a に終っている.以上第4変化の名詞は第1,2,3変化の名詞に比べるとはるかに数が少ないので(女性や中性はことに少ない),解剖学用語としては,ほとんどすべてをあげたことになる.

5.第5変化名詞は,ほとんど女性である.単数主格の語尾は -⁠ēs で,たとえば,faciēs,faciēī,faciēs,faciērum と変化し,faciēs,-⁠ēī f. (顔,面)と示す.例としては,faciēs からできた superficiēs(表面)をあげておく.もともとこの変化の名詞はきわめて少ない.

6.名詞の語尾変化(表1)を概観して注意すべき点を列挙する.

a)第1,2変化および第3変化の名詞は数が多くてとても覚え切れるものではないが,第4変化,ことに第5変化の名詞は少ないので,まずこれらの名詞をおさえておく.

b)第3変化の名詞は数も多い上に,変化がはげしくて,単数主格の形がいろいろで語幹が完全に現われていないことが多く,属格(必ず -⁠is に終る)以下で語幹と語尾を確認しなければならないし,主格以外の格から主格を求めるのも難しい(それができなければ,辞書も引けないし,単語集を見てもどれだか分からない).そこで特に第3変化の名詞は必ず dēns,dentis と続けて発音して,その変化の感じを目と耳から覚えておく.

c)第4変化(男・女性)と第5変化の名詞は,単数と複数の主格が全く同じ形である.

d)-⁠a という語尾は,第1変化名詞(女性単数主格)のほかに,第2,3,4変化名詞(中性複数主格)にある.
 -⁠us という語尾は,第2変化名詞(男性単数主格)のほかに,第3変化名詞(中性単数主格,corpus など),第4変化名詞(男・女性単数主・属格および複数主格,中性単数属格)にある.
 -⁠um という語尾は,第2変化名詞(中性単数主格)のほかに,すべての変化の複数属格の末尾に見られる.
 -⁠ma という語尾は,ギリシア語ならば,chīasma,-⁠atis,-⁠ata,-⁠atum と第3変化子音語幹の中性名詞であるが,ラテン語では squāma,-⁠ae と第1変化の女性名詞である.

e)第2,3,4変化名詞のように男(女)性と中性が分かれている場合も,語尾の異なるのは単・複数の主格だけで,属格は同形である.

f)第1~5変化名詞の複数属格の語尾は,それぞれ,-⁠ārum,-⁠ōrum,-⁠(i)um,-⁠uum,-⁠ērum であって,幹母音 a,o,i,u,e に (r)um のついた形である.

7.名詞の縮小形(縮小詞)の形成
 第1~4変化名詞のうちのあるものは,男性ならばその語(または語幹)に -⁠culus,-⁠ulus,-⁠olus,-⁠illus などの接尾辞をつけ(第2変化男性の縮小詞となる),女性ならば -⁠cula,-⁠ula,-⁠ola,-⁠ella,-⁠illa,-⁠ulla などをつけ(第1変化女性の縮小詞となる),中性ならば -⁠culum,-⁠ulum,-⁠ellum などをつける(第2変化中性の縮小詞となる).次になるべく多く例をあげる.

a)男性(第2変化)の縮小詞
caliculus(杯<calix,-⁠icis m. 杯),canāliculus(小管<canālis,-⁠is m. 管),colliculus(小丘<collis,-⁠is m. 丘),fasciculus(束<fascis,-⁠is m. 束),folliculus(小胞<follis,-⁠is 袋),fonticulus(泉門<fōns,fontis m. 泉),mūsculus(筋<mūs,mūris m. ネズミ),pediculus(根<pēs,pedis m. 足),pedunculus(脚<pēs,pedis m. 足),ūtriculus(卵形囊<ūter,-⁠tris m. 囊),ventriculus(胃,室<venter,-⁠tris m. 腹),ānulus(輪<ānus,-⁠ī m. 肛門),ductulus(小管<ductus,-⁠ūs m. 管),glomerulus(糸球体<glomus,-⁠eris n. 糸球―中性名詞であるから glomerulum とすべきもの),hāmulus(鈎<hāmus,-⁠ī m. 鈎),lobulus(小葉<lobus,-⁠ī m. 葉),nōdulus(小節<nōdus,-⁠ī m. 節),sacculus(球形囊<saccus,-⁠ī m. 囊),tubulus(細管<tubus,-⁠ī m. 管),alveolus(胞<alveus,-⁠ī m. 飼葉桶),malleolus(果<malleus,-⁠ī m. ツチ骨),nucleolus(核小体<nucleus,-⁠ī m. 核<nux,nucis f. 堅果),petiolus(茎<pēs,pedis m. 足),capillus(頭毛<?caput,-⁠itis n. 頭),pēnicillus(筆毛動脈<pēniculus,-⁠ī m. 毛筆<pēnis,-⁠is m. 尾,陰茎)

b)女性(第1変化)の縮小詞
auricula(耳介,心耳<auris,-⁠is f. 耳),clāvicula(鎖骨<clāvis,-⁠is f. 鍵=鎖),cuticula(小皮<cutis,-⁠is f. 皮膚),vēsīcula(囊<vēsīca,-⁠ae f. 囊),fossula(小窩<fossa,-⁠ae f. 窩),glandula(腺<glāns,glandis f. どんぐり),habēnula(手綱<habēna,-⁠ae f. 手綱),lūnula(半月<lūna,-⁠ae f. 月),ūvula(垂<ūva,-⁠ae f. ブドウの房),valvula(弁<valva,-⁠ae f. 弁),vēnula(小静脈<vēna,-⁠ae f. 静脈),zōnula(小帯<zōna,-⁠ae f. 帯),āreola(輪<ārea,-⁠ae f. 野),artēriola(小動脈<artēria,-⁠ae f. 動脈),foveola(小窩<fovea,-⁠ae f. 窩),glabella(眉間,形容詞 glabellus(毛のない)の女性形<glaber はげている),lāmella(層板<lāmina,-⁠ae f. 板),patella(膝蓋骨<patina,-⁠ae f. 皿),mamilla(乳頭<mamma,-⁠ae f. 乳房),papilla(乳頭<papula,-⁠ae f. いぼ<動詞の語根 pap ふくれる),ampulla(膨大部<amphora,-⁠ae f. つぼ).

c)中性(第2変化)の縮小詞
corpusculum(小体<corpus,-⁠oris n. 体),geniculum(膝<genū,-⁠ūs n. 膝),ossiculum(小骨<os,ossis n. 骨),rēticulum(細網<rēte,-⁠is n. 網),retināculum(支帯<動詞 retineo 引き止める),tūberculum(結節<tūber,-⁠eris n. 隆起),capitulum(小頭<caput,-⁠itis n. 頭),frēnulum(小帯<frēnum,-⁠ī n. 手綱),grānulum(顆粒<grānum,-⁠ī n. 穀粒),sēptulum(中隔<sēptum,-⁠ī n. 中隔),cerebellum(小脳<cerebrum,-⁠ī n. 大脳).

B.形容詞の語尾変化

 形容詞は,表1に示したように,第1・2変化および第3変化形容詞の2種類あり,これらを用例によって示したものが次の表2である.

表2 形容詞の語尾(属格以下は表1を見よ)
形容詞単数主格
種類用例(1)用例(2)用例(3)用例(4)
第1・2変化longuslongissimusasperniger
-⁠a-⁠a-⁠era-⁠gra
-⁠um-⁠um-⁠erum-⁠grum
第3変化男・女brevis(i)brevior(子)biceps(子)
teres(i)
āscendēns(i)
-⁠e(i)-⁠ius(子)

1.第1・2変化形容詞の語尾は,名詞の第1変化(女性)と第2変化(男性と中性)の語尾と同じものである.たとえば,用例(1)の longus(長い)という形容詞が男性名詞 nervus(神経)についてこれを修飾するとすれば,nervus longus(長い神経)となって longus は第2変化男性の語尾をとり,女性名詞 vēna(静脈)につけば,vēna longa(長い静脈)となって longa は第1変化女性の語尾をとるが,中性名詞 collum(頚)について collum longum(長い頚)となれば longum は第2変化中性の語尾をとる(もちろん,名詞が第3変化や第4,第5変化であっても同じことである).一般に,形容詞はそれが修飾する名詞の性・数・格に一致して変化させなければならない.(表2には単数主格だけを示したが,各形容詞の属格以下は表1の該当する欄を見れば分かる.)第1・2変化の形容詞は,たとえば,longus,-⁠a,-⁠um(長い)と示す(3形).(以下形容詞の例では,男性形だけをあげて,女性形と中性形は省略し,また意味の送り仮名も実際の用語のように略す.)例としては,albus(白),cēcus(盲),dūrus(硬),māgnus(大),pallidus(淡蒼)のような本来の形容詞のほかに,名詞に一定の形容詞語尾のついた hāmātus(有鈎),hyoīdeus(舌),mediānus(正中),medius(中),mōtōrius(運動),mūcōsus(粘液),osseus(骨),pelvīnus(骨盤),peronēus(腓骨),pneumaticus(含気),thōrācicus(胸),transversārius(横),transversus(横)など多数ある.なお,用例(3)の asper,aspera,asperum(粗)のような変化をする lacer(裂),līber(自由)や用例(4)の niger,nigra,nigrum(黒)のような ruber(赤),sacer(聖,仙)1),dexter,-⁠tra,-⁠trum(右),sinister(左)のように男性単数主格の語尾が -⁠us でなくて -⁠er のものも含まれる.また,azygos(奇)と hēmiazygos(半奇)はギリシア語の形容詞の語尾をそのまま残したもので,男性と女性の形は -⁠os,中性だけが -⁠on となる(vena azygos(奇静脈),vēna hēmiazygos(半奇静脈)でよい).

2.第3変化形容詞は,名詞の第3変化と同じ語尾をとる.たとえば,用例(1)の brevis は男・女性形で,中性は breve となり(2形),brevis,-⁠e(短い)と示す.(以下中性の語尾と意味の送り仮名を省く.)例としては,tenuis(細,小)commūnis(総)などのほかに,名詞に一定の形容詞語尾のついた craniālis(頭方),caudālis(尾方),dorsālis(背側),ventrālis(腹側),mediālis(内側),laterālis(外側),palmāris(掌側),plantāris(底側),radiālis(橈側),ulnāris(尺側),piriformis(裂状)など多数あり,いずれも第3変化 i 語幹の名詞(auris,rēteなど)のように変化する.また,用例(4)の āscendēns(上行)や dēscendēns(下行),commūnicāns(交通)などは動詞の現在分詞が分詞形容詞として使われている場合で,男・女・中性共通の1形で,属格は āscendentis となるので,āscendēns,-⁠entis(上行)と示す(名詞の dēns,dentis に似て i 語幹である).ほかに,perforāns(貫通)など.さらに,用例(3)の teres,-⁠etis(円)も i 語幹で1形の形容詞であるが,biceps,-⁠cipitis(二頭)(bi(2)+caput,-⁠itis(頭))や triceps(三頭),quadriceps(四頭)などは,子音語幹で1形の形容詞である(複数を使うことはないので問題にはならないが).名詞は子音語幹のほうが多種多様であったが,形容詞は i 語幹のほうが多い.

3.形容詞の比較
上述したように,形容詞(原級)には longus,-⁠a,-⁠um(長い)(第1・2変化)と brevis,-⁠e(短い)(第3変化)の2種類あったが,比較級ではいずれも用例(2)のように,longior,-⁠ius(より長い),brevior,-⁠ius(より短い)(第3変化,単数属格は -⁠ōris,複数属格は -⁠ōrum,すなわち子音語幹)となり,最上級は longissimus,-⁠a,-⁠um(最も長い),brevissimus,-⁠a,-⁠um(最も短い)(第1・2変化)となる.(意味を示すときに,比較級は(長)(短),最上級は(最長)(最短)というように省略する.)大多数の形容詞はこのように規則的に変化するが,少数の重要な形容詞には不規則なものがある,これらを表3にまとめておく.

表3 形容詞の比較
原級(第1・2または3変化)比較級(第3変化)最上級(第1・2変化)
longus, -⁠a, -⁠um(長)longior, -⁠ius(長)longissimus, -⁠a, -⁠um(最長)
brevis, -⁠e(短)brevior, -⁠ius(短)brevissimus, -⁠a, -⁠um(最短)
magnus, -⁠a, -⁠um(大)mājor, -⁠jus(大)māximus, -⁠a, -⁠um(最大)
parvus, -⁠a, -⁠um(小)minor, -⁠us(小)minimus, -⁠a, -⁠um(最小)
superus, -⁠a, -⁠um*superior, -⁠ius(上)suprēmus, -⁠a, -⁠um(最上)
=summus, -⁠a, -⁠um
inferus, -⁠a, -⁠um*inferior, -⁠ius(下)īnfimus, -⁠a, -⁠um(最下)
=īmus, -⁠a, -⁠um
ナシanterior, -⁠ius(前)ナシ
posterus, -⁠a, -⁠um*posterior, -⁠ius(後)postrēmus, -⁠a, -⁠um***
=postumus, -⁠a, -⁠um
(internus, -⁠a, -⁠um(内))interior, -⁠ius**intimus, -⁠a,-⁠um(最内)
(externus, -⁠a, -⁠um(外))exterior, -⁠ius**extrēmus, -⁠a, -⁠um***
* は解剖学用語としては使用されず,その比較級が使われる.
** は使用されず,その原級はないが,原級の意味に近い形容詞が使われる.
*** は使用されない.(なお,anterior は後期ラテン語として新たに造られたもので,原級も最上級もない.)

4.数詞のうちでは序数詞の第12までが第1・2変化形容詞として使われる.(脳室は第4まで,手足の指は第5まで,胸椎および肋骨は第12までである.)

第1primus,-⁠a,-⁠um第7septimus
第2secundus(以下略)第8octāvus
第3tertius第9nōnus
第4quārtus第10decimus
第5quīntus第11undecimus
第6sextus第12duodecimus

Ⅴ.解剖学用語(Nomina anatomica)の構成

1.用語が1語で示される場合,名詞の単数または複数主格が用いられる.
 oculus(眼),faucēs(口峡)
各名詞について辞典や用語集を見て必要なことを調べれば,表1の変化表によって変化させることができる.たとえば,oculus,-⁠ī m. (眼)とあれば,第2変化の男性名詞であり,faucēs,-⁠ium f. (口峡)とあれば,第3変化女性名詞(i 語幹)の複数であることがわかる.用語の最初の文字は大文字にしてもよい.複数は対の器官やもともと複数のもの以外にはめったに使わない.

2.用語が2語より成る場合.

a)名詞(主格)+名詞(主格) 筋の名称だけに見られる用法であって,筋という名詞の後にその作用を表わす名詞(動作者)が同格で続く.
 musculus massētēr(咬筋),m. 2) supīnātor(回外筋)各名詞にそれぞれ固有の変化をさせて数と格をそろえればよい.mūsculus,-⁠ī  m. (筋),massētēr,-⁠ēris m. (咬むもの),supīnātor,-⁠ōris m. (あおむけにするもの,回外するもの)であるから,mūsculus は第2変化男性名詞,massētēr と supīnātor は第3変化男性名詞(子音語幹)の変化をさせる.たとえば,属格は musculī massētēris,m. supīnātōris となる.このような筋名の複数は musculī arrectōrēs(立毛筋),mm. 3) levātōrēs(挙筋),mm. rotātōrēs(回旋筋)のような筋群に用いられるだけで,属格は mūsculōrum arrectōrum となる.後の名詞は活動する行為者を表わす -⁠ēr(ギリシア語),-⁠or という語尾でわかるように第3変化子音語幹の男性名詞ばかりである.例をあげると,m. cremastēr(精巣挙筋),m. sphinctēr(括約筋)(以上はギリシア語),m. abductor(外転筋),m. adductor(内転筋),m. constrictor(収縮筋),m. corrugātor(皺眉筋),m. dēpressor(下制筋),m. dīlātātor(散大筋),m. ērector(起立筋),m. extensor(伸筋),m. flexor(屈筋),m. prōnātor(回内筋),m. tensor(張筋)などである.

b)名詞(主格)+名詞(属格) 普通に見られる形である.
 āla nāsī(鼻翼),dorsum manūs(手背)āla,-⁠ae f. (翼),nāsus,-⁠ī m. (鼻)は第1変化女性名詞と第2変化男性名詞,dorsum,-⁠ī n. (背),manus,-⁠ūs f. (手)は第2変化中性名詞と第4変化女性名詞である.前の名詞(主格)は変化させるが,後の名詞(属格)は属格として形容詞的にはたらいているので変化させては意味がなくなる.したがって次のようになる.
 ālae nāsī,dorsī manūs(単・属)
 ālae nāsī(nāsōrum),dorsa manuum(複・主)
 ālārum nāsī(nāsōrum),dorsōrum manuum(複・属)
ālae nāsī は,単数の鼻の複数の翼,ālae nāsōrum は複数の鼻の複数の翼ということになるが,dorsa manuum の方は,dorsa manūs ということはありえない.また,もともと複数の名称にも sūtūrae cranii(頭蓋の縫合)のように単数属格の場合と,vorticēs pilōrum(毛渦)の場合のように複数属格の場合があるし,rīma palpebrārum(眼𥇥裂)のように単数の名称で複数属格がついていることもある.

c)名詞(主格)+形容詞(主格) 最も普通に見られる形であろう.形容詞は常に名詞の性・数・格に一致して変化させなければならない.
 columna vertebrālis(脊柱),os sacrum(仙骨)columna,-⁠ae f. (柱),vertebralis,-⁠e(脊椎)は第1変化女性名詞と第3変化形容詞(i 語幹),os,ossis n. (骨),sacer,-⁠cra,-⁠crum(聖,仙)は第3変化中性名詞(不規則)と第1・2変化形容詞である.名詞は固有の変化をさせ,形容詞はその性に合わせて変化させて一致させる,したがって次のようになる.
 columnae vertebrālis,ossis sacrī(単・属)
 columnae vertebrālēs,ossa sacra(複・主)
 columnārum vertebrālium,ossium sacrōrum(複・属)
しかし,この場合も複数などは使わないであろう.また,形容詞の比較級や最上級が使われることも多い.たとえば,
 palpebra superior(上眼𥇥),membrum inferius(下肢),faciēs anterior(前面),trochantēr mājor(大転子),mūsculus longissimus(最長筋)など.以上の例のように,形容詞を名詞の後に置くのが普通であるが,次の用語だけは例外的に名詞の前に形容詞を置いている.
 pia māter(軟膜),dūra māter(硬膜)pius,-⁠a,-⁠um(敬けんな,軟),dūrus,-⁠a,-⁠um(硬),māter,-⁠tris f. (母).脳や脊髄を包む「膜」を「母」というのはいいとしても,pius には「軟かい」という意味はない.これはアラビア語の用語をラテン語に訳すときに起こったことであるらしい.アラビア語の形容詞には「軟かい」と「敬けんな」との意味があったものを pius と訳したため.語の順序もアラビア語風なのかもしれない.そのほかにもアラビア語の影響を受けた用語としては,v. basilica(尺側皮静脈),v. cephalica(橈側皮静脈)などがあり,nucha(項)や v. saphēna(伏在静脈)などはアラビア語そのものであるという.

3.用語が3語以上の語より成る場合.2語の場合の原則を複合させたものであるから,まず要素に分解して,変化しうるものを変化させればよい.
 artēria iliaca commūnis(総腸骨動脈) artēria iliaca(腸骨動脈)に commūnis(総)がついたもので,commūnis も iliaca と同じように artēria に性・数・格を一致させる.
 concha nāsālis inferior(下鼻甲介) これも concha nāsālis(甲介)に interior(下)のついたもの.
 faciēs articulāris capitis costae(肋骨頭関節面) faciēs articulāris(関節面)に caput costae(肋骨頭)の属格がついたもの.facies articulāris の方だけ変化させればよい.
 tūberōsitās mūsculī serrātī anteriōris(前鋸筋粗面) tūberōsitās(粗面)に mūsculus serrātus anterior(前鋸筋)の属格がついたもの.tūberōsitās だけ変化する.
 以上のような多数語より成る用語には前置詞の ad(―への,対格支配),cum(―との,従格支配),sine(―のない,従格支配)や接続詞の et(と),-⁠que(と,次の語の後につく),sīve(または)などを含むものがある.たとえば,
 rāmus sympaticus ad ganglion ciliāre(毛様体神経節への交感神経枝) rāmus sympathicus(交感神経枝)に ganglion ciliāre(毛様体神経節)が ad(への)によって対格にされてついている.
 rāmus commūnicāns cum nervō laryngēō inferiōre(下喉頭神経との交通枝) rāmus commūnicāns(交通枝)に nervus laryngēus inferior(下喉頭神経)が cum(との)によって従格にされてついている.
 glandulae sine ductibus(内分泌腺) glandulae(腺,複数)に ductūs(導管,複数)が sine(のない)によって従格にされてついている.(導管のない腺が内分泌腺である.)
 truncī lumbālēs dexter et sinister(右・左腰リンパ本幹) truncus lumbālis dexter と t.l. sinister を一緒にしたもの.2本であるから truncī lumbālēs と複数になっている.
 nervī digitālēs dorsālēs,hallucis laterālis et digitī secundī mediālis(母指外側と第二指内側の背側皮神経)や vagīna tendinis musculōrum abductōris longī et extensōris brevis pollicis(母指の長外転筋および短伸筋の腱鞘)などは解剖学用語のうちで最も長いものであろう.このようなものを変化させることはほとんどあるまい.
 mūsculus levātor labiī superiōris ālaeque nāsī(上唇鼻翼挙筋)は labium superius(上唇)(と)āla nāsī(鼻翼)-⁠que(と)のmūsculus levātor(挙筋)という意味で,-⁠que という接続詞は次の語の後に接尾辞としてつくのである(そのときアクセントは常に que の前にある.ālae´que はその前がたまたま重母音であるから当然であるが,たとえ āláque であっても.)
 ligāmentum suspensōrium pēnis sīve clītoridis(陰茎(陰核)提靱帯)ligāmentum suspensōrium pēnis(陰茎の提靱帯)sīve(または)l.s. clītoridis(陰核の提靭帯)ということ.pēnis と clītoridis は属格である.

 つぎに解剖学用語に見られる略字を一覧表にしておく.

表4 略字一覧
名詞
a. =artēria(動脈),aa. =artēriae(動脈,複数), art. =articulatio(関節),for. =forāmen(孔), ggl. =ganglion(神経節), gl. =glandula(腺),gll. =glandulae(腺,複数), ln. =lymphonōdus(リンパ節),lnn. =lymphonōdī(リンパ節,複数), lig. =ligāmentum(靱帯),ligg. =ligāmenta(靱帯,複数), m. =mūsculus(筋),mm. =mūsculī(筋,複数), n. =nervus(神経),nn. =nervī(神経,複数), ncl. =nucleus(核),pl. =plexus(神経(静脈)叢), proc. =prōcessus(突起), r. =rāmus(枝),rr. =rāmī(枝), v. =vēna(静脈),vv. =vēnae(静脈,複数)
形容詞
ant. =anterior(前),caud. =caudālis(尾方), cran. =craniālis(頭方),dist. =distālis(遠位), dors. =dorsālis(背側),fib. =fibulāris(腓側), inf. =inferior(下),lat. =laterālis(外側), med. =mediālis(内側),plant. =plantāris(底側), post. =posterior(後),prox. =proximālis(近位), rad. =radiālis(橈側),sup. =superior(上), superf. =superficiālis(浅),tib. =tibiālis(𦙾側), uln. =ulnāris(尺側),ventr. =ventrālis(腹側)

 さて,以上のとおり解剖学に用いられるラテン語を解説したが,これらの用語には古典期の(Celsus や Plinius などの使った)いわゆる古典ラテン語(当然先進文化語であるギリシア語がラテン語化されてかなり沢山はいっている)のほかに後期ラテン語や中世ラテン語も含まれているし,さらに近世ラテン語(ギリシア語,ラテン語,アラビア語などを新たに改変したもののほかに英語やフランス語などの近代語を学術用にラテン語化したもの)も見られる.また,最近は従来の解剖学用語に組織学用語と発生学用語も加えられた.これらにはふれなかったが,どんな場合でも,ひとたびラテン語として造られた用語であれば,その発音も変化もこれまでのべてきたラテン語の規則に従ってすればよいのである.一つ一つの単語を注意深く調べておけば,そう難しいことではない.

 最後に H. Triepel が小冊子の名著 Die Anatomischen Namen の初版の前書き(1905年)に残した言葉を伝えて稿を置きたい.

 ……私がこの小冊子を書く決心をした第二の理由は,多くの解剖学用語が非常にしばしぼ間違ったアクセントで発音されていることである.ひとたびギリシア語の美しさとラテン語の正確さに驚嘆したことのある人なら,胸を刺されるにちがいないような用語の発音を解剖実習室で(残念ながらほかの場所でも)何度も聞かされることになるのである.……

 今世紀の初めのドイツの大学でもこんな状況であったことに驚くのであるが,今世紀も終りに近づいた日本の大学でラテン語を使う方々にこの小文が少しでもお役に立てば幸いである.


  1. os sacrum(仙骨)の仙であるが,sacer は神聖なという意味であって,ギリシア語の hieron ostoun(大きな骨)の hieros(神聖な,大きい)という形容詞を sacer(大きいという意味はない)と訳したために起こったことである.
  2. m. = mūsculus
  3. mm. = mūsculī

(このページの公開日:2021年6月17日)

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