Dystonin 遺伝子による神経・筋・皮膚の多臓器恒常性―維持機構の解明―
新潟大学大学院医歯学総合研究科脳機能形態学分野
吉岡 望

この度は,歴史ある日本解剖学会の奨励賞を賜りましたこと,大変光栄に存じます.これまでご指導いただいた先生方,共同研究者の先生方,同僚をはじめご支援いただいた全ての方に感謝申し上げます.また選考委員の先生方はじめ,解剖学会の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.この度,受賞者紹介文を執筆する機会をいただきましたので,これまでの経歴について紹介させていただきます.
私は横浜市立大学 理学部を卒業後に,首都大学東京(現東京都立大学)大学院理工学研究科に入学し,東京都神経科学総合研究所の川野仁先生のもとで研究をスタートしました.これは川野先生が横浜市立大学のOB であったこともあり,大学に講義に来られたのがきっかけでした.講義の内容は,金硫化グルコースによる視床下部破壊モデルや脳損傷後の瘢痕(はんこん)形成に関するものであったと記憶しています.東京都神経科学総合研究所で研究するにあたり,首都大学東京の久永眞市先生の神経分子機能研究室に所属させていただきました.久永先生からは,専門外の私の研究に対しても常に的確なご助言をいただきました.久永先生の研究室からは,沢山の研究者が輩出されており,現在も研究を通じて交流が出来ていることを嬉しく思っています.川野先生の下では,初めは視床下部について研究しておりましたが,徐々に神経再生に研究テーマが変わっていきました.当時,脳損傷後の軸索再生阻害因子としてアストロサイトがつくるグリア瘢痕が広く研究されていた中で,川野先生の研究室では線維芽細胞がつくる線維性瘢痕について精力的に研究しておりました.私は,脳損傷後の創傷治癒と瘢痕形成との関係について研究し,二つの瘢痕組織が血液脳関門修復や軸索再生阻害に対して異なる作用を示すことを明らかにして,2012年に博士(理学)を取得いたしました1.川野先生からは,沢山のことを学ばせていただきましたが,自身の眼で観察した現象にもとづいて研究を行っていく形態学者としての研究姿勢は,今でも尊敬しております.学位取得後は,新潟大学 医学部 生化学の五十嵐道弘先生の研究室で博士研究員となり,細胞外マトリックスに豊富な糖鎖であるコンドロイチン硫酸の合成酵素KO マウスを用いて神経発達について研究しました2.五十嵐先生の下では,生化学的なアプローチや網羅的な分子解析の重要性について学ばせていただき,当時は形態学的な手法しか経験がなかった私にとっては大変勉強になりました.2014年から福島県立医科大学 生体情報伝達研究所の小林和人先生の研究室で,ウイルスベクターによる神経回路トレーシングや神経回路操作法を用いて大脳基底核の研究に従事いたしました.小林先生の研究室には優秀なスタッフが揃っており,2年余りではありましたが大変充実した研究生活を送ることが出来ました.小林先生の下で学んだ手技や知識は現在でも研究の基礎となっています.また小林先生のご理解もあり,同大 神経解剖・発生学講座の八木沼洋行先生の下で,肉眼解剖学実習に参加する機会に恵まれました.この間,名古屋大学が主催する人体解剖トレーニングセミナーにも参加させていただきました.これらの経験は,現在まで貴重な財産となっております.2017年からは新潟大学 医学部 神経解剖学の竹林浩秀先生の研究室に在籍し,今回の奨励賞の受賞テーマ3となった神経,筋4,皮膚5におけるジストニン遺伝子の機能解析に取り組みました.現在の研究室には,最も長い期間在籍しましたが,その間に多くの共同研究者や研究室の同僚からの支援を受けながら,形態学以外にも様々な技術を取り入れながら研究する機会に恵まれました.これからも自身の眼で観察して真実を追求する形態学者としての研究姿勢を大切にしながらも,多方面からの解析技術を取り入れることで,本質的で重要な研究を目指したいと考えております.現在は肉眼解剖学実習にも参加する機会をいただいており,微力ながら解剖学の教育・研究に携わるものとしてこの分野の発展に貢献できるように尽力していく所存です.今後ともご指導ご鞭撻のほど,宜しくお願い申し上げます.
参考文献
- Yoshioka et al., (2010) J Comp Neurol. 518 (18): 3867–3881.
- Yoshioka et al., (2017) Mol Brain, 5;10(1): 47.
- Yoshioka et al., (2023) Anat Sci Int, in press
- Yoshioka et al., (2022) eLife, 9; 11: e78419.
- Yoshioka et al., (2020) Dis Model Mech, 13: dmm041608.
(このページの公開日:2024年11月21日)