オルガネラ三次元微細構造観察による神経修復メカニズムの解析

名古屋大学大学院 医学系研究科 機能組織学
玉田 宏美

出典:解剖学雑誌97巻p.72 (2022)(許可を得て転載)

この度はこのような歴史ある賞を頂き,大変光栄に存じます.木山博資先生はじめ関係各位の先生方,これまでご指導頂いた先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます.簡単にですが私のこれまでの研究経緯を紹介させて頂きます.

私が研究を始めたのは,早稲田大学生体構造学教室(小室輝昌教授)で,主に電子顕微鏡を用いた消化管の神経やペースメーカー機能を持つカハールの介在細胞と呼ばれる細胞についての研究室でした.この教室は,故・濱清先生が立ち上げられた教室で,教室の扉には濱先生の教えとお写真の切り抜きが小さく貼ってあり,「濱」とかかれたハンマーがあったり…と親しみを感じておりました.小室先生からは,学部から博士号取得まで,みっちりと形態学の基本を教えて頂きました.電顕に関しては非常に厳しく,よくわからずに撮った写真・形態所見的に意味のない写真は即処分でしたが,今自信をもって自分の電顕写真と所見を提示できるのは,この時に徹底的に「良い電顕像」を学ぶことができたおかげだと思います.教科書にのるような普遍的かつ新たな発見を目指し,十分な形態観察から仮説を立て,さらに観察を繰り返すことで反例の有無を探りそれらを証明する,という形態研究の手法について学び,像を「読む」ため撮った写真をスケッチしたりしながら,それらから何が言えそうかを探る毎日でした.像や標本自体は同じはずなのに,自分が何も理解していない状態と,理解してから観察する際の見え方が大きく異なることに面白みを感じ,形態研究を続けています.

大学院修了後,名古屋市立大学細胞生理学教室(橋谷光教授)に学振PD で1年間お世話になり,消化管のCa2+ イメージングや収縮実験を行っておりました.生きた細胞組織での研究を経験し,形態と機能と結びつけるためのアプローチの一つを知ることができました.

その後,木山先生の名古屋大学機能組織学教室にご縁があり,本奨励賞の研究課題であります損傷神経やオルガネラの研究を始めることになります.これまでとは異なる研究対象であったものの,やはり神経組織の形態は圧倒的に美しく,観察するほどに疑問や興味が湧くと共に,他の先生方の様々な研究の視点にも触れることができました.解析の主軸となったFIB/SEM については,院生の頃,久留米大の中村桂一郎先生・太田啓介先生の教室で知ったのが最初でしたが,その後図らずも名大に導入されることになり,アナウンスを見つけた際は,掲示板を二度見ならぬ三度見をしたことを思い出します.導入後はなかなか誰も触り始めず,思い切って先頭を切って稼働させてみたものの,初期の頃はバグも多く,かなりの時間をこの装置に費やしましたが,装置をよく理解し付随する新たな知識を得る良い機会だったかと思います.

研究対象のミトコンドリアをはじめとしたオルガネラは,なるべく組織レベルで解析を進めたいという木山研の方針の下で,FIB/SEM による観察がマッチした研究対象であると考えています.「微細かつ多量に存在」するものを「組織標本中」で一つ一つ捉えるためには光学顕微鏡や従来の電顕では極めて困難です.また,本研究課題で注目したAIS などの広い範囲を観察するという点でもFIB/SEM は有効な手段です.この課題は,マウス正常運動神経のFIB/SEM データを観察中に,Dendrite とは異なる様相で急激に細くなる構造物の存在と,さらにその部分では不自然にミトコンドリアが見られないことに気が付いたのがきっかけでした.追いかけるうちにミエリンが巻き始めるポイントに到達し,それが“AIS”だとわかった時には衝撃を受けました.損傷後は一変してAIS 部分にミトコンドリアが分布すること,またミクログリアとの膜レベルでの結合との関係性も非常に興味深く,ここからさらに機能に切り込む展開ができればとも思います.現在はオルガネラ全般の形態解析に興味を広げ,特にER に注目した研究を展開しています.

電顕は機能解析などで得られたストーリーの最終的なだめ押しの手段にすぎないと捉えられることが多い現状ですが,留学中(Prof. Carl Petersen, Prof. Graham Knott: EPFL)に学んだことも生かし,電顕所見から切り込む研究展開を目指したいと考えています.また,木山研でも継続させて頂いていた,学生時代からの消化管研究に再度挑戦を進めるべく,2022年5月より福井大学解剖学の飯野哲先生の教室に所属しております.今後とも形態研究の発展に尽力する所存ですので,ご指導賜りますようお願い申し上げます.

(このページの公開日:2022年10月18日)

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