レポーターiPS 細胞を用いた神経細胞サブタイプ特異的なミトコンドリアの機能・形態学的研究

順天堂大学大学院医学研究科神経機能構造学講座
横田 睦美

出典:解剖学雑誌99巻p.103 (2024)(許可を得て転載)

この度は日本解剖学会奨励賞という歴史ある賞を賜りまして,大変光栄に存じます.現所属先の小池正人先生をはじめ,日頃よりご指導いただいております先生方,日本解剖学会の先生方に心より御礼申し上げます.今回の受賞者紹介記事の場をお借りして,私のこれまでの研究経緯や現在の研究内容について紹介させていただきます.

私は筑波大学第二学群生物学類3年次における研究室配属においていくつかの研究室見学を行った際に,ミトコンドリア研究を行っている林純一先生の活気ある研究室に惹かれて入室することを決めました.林純一先生は大変情熱的かつ厳しい先生で,最初の課題は論文を100本読みレポートにまとめるという課題だったと記憶しています.筑波大学大学院生命環境科学研究科へ入学後は,がん悪性化に寄与する変異型ミトコンドリアDNA を有するモデルマウスを作製し,病態を解析するというテーマで研究を行いました.作製したモデルマウスは若齢時にはミトコンドリアの呼吸鎖酵素複合体の活性低下が認められるものの顕著な病態はなかったのですが,加齢するとリンパ腫の発症頻度が高いことがわかり,新しい発見を世界で自分が最初に知ることができるという研究の醍醐味を味わいました.とはいうものの研究を続けていく自信がもてずに大学院修了後はどうしようかと悩んでいた時に,ご縁がありミトコンドリア病の専門家である国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第二部の後藤雄一先生の研究室に研究員として入所することになりました.

国立精神・神経医療研究センターではミトコンドリア病患者さんの筋芽細胞や線維芽細胞がバイオバンクとして保存されています.ミトコンドリア病病態解明のためミトコンドリア病患者さん由来の線維芽細胞からiPS 細胞を誘導するなかで,変異型ミトコンドリアDNA を高い割合で有する線維芽細胞からはiPS 細胞が誘導されにくいことを見つけました.同様に,変異型ミトコンドリアDNA を高い割合で有するiPS 細胞からは神経細胞や心筋細胞へ分化されにくいことがわかり,ミトコンドリア機能低下が細胞初期化や細胞分化を阻害することを論文報告しました.病態発症だけではなく細胞運命決定にもミトコンドリアが深く関与していることを実感し,さらにミトコンドリア研究に興味を持つようになりました.

2016年からは順天堂大学大学院医学研究科神経機能構造学講座小池正人先生の研究室にて電子顕微鏡を用いてミトコンドリアの形態にも着目した研究を行っています.特に近年は,ミトコンドリアの形態や小胞体とのコンタクトサイトの変化と神経変性疾患発症との関連を示唆する論文が多数報告されています.私はミトコンドリア病が多臓器疾患であるのに対し,パーキンソン病では中脳黒質緻密部のドパミン神経細胞が優先的に変性することに着目し,当大学医学部脳神経内科服部信孝先生やゲノム・再生医療センター赤松和土先生,慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之先生との共同研究により,パーキンソン病患者さん由来のiPS 細胞からドパミン神経細胞特異的にGFP を発現するレポーターiPS 細胞を新しく樹立しました.このレポーターiPS 細胞を用いた光顕‐電顕相関観察やライブイメージングを行うことにより,ドパミン神経細胞に特徴的なミトコンドリアの機能や形態を明らかにすることが出来ました.また,パーキンソン病患者さん由来のレポーターiPS 細胞を用いた解析により,ドパミン神経細胞におけるミトコンドリアと小胞体のコンタクトサイトの変化についての研究結果も報告いたしました.今後はドパミン神経細胞だけではなく他の神経細胞サブタイプにおけるミトコンドリアの特徴も明らかにし,ミトコンドリアの機能や形態を起点とした神経変性疾患の発症機序解明を目指したいと考えています.

最後になりましたが,これまでご指導してくださった先生方や共同研究者の先生方,研究室の皆様,一緒に研究を行ってくれた医学部生や技術員の方々,そして大学内のiPS 細胞培養施設や電子顕微鏡施設の技術支援,育児中の女性研究者に対する研究支援制度にもサポートしていただき,ここまで研究を続けてこられました.この場を借りて厚く御礼申し上げます.今後も感謝の気持ちを忘れずに,解剖学分野の発展にも微力ながらも貢献できるよう努力する所存です.今後ともご指導のほどよろしくお願い申し上げます.

(このページの公開日:2024年11月21日)

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